一般社団法人東洋はり医学会

院長の所属する鍼灸の学術団体である「一般社団法人東洋はり医学会」は、2019年をもって創立60周年を迎える国内最大の勉強会です。
国内、海外に支部が存在し、鍼灸の普及啓蒙活動を司っています。
毎月東京にて、講習会が開催され、大勢の会員が日夜学術の修練に勤しんでおります。
講習会ノートは、そんな勉強会に参加した院長の雑感や感想などを綴ったものです。
少しマニアックな内容になるかも知れませんが、鍼灸師の世界を覗いてみませんか。
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2018.9.2

解説 杉山流三部書の臨床解説 諸虫(もろもろのむし)

中村光男副会長 講義

虫は湿熱より生ず。腐草、蛍となるがごとし。その證、嘈雑、腹痛、涎沫を嘔吐し、面の色痿黄、眼眶・鼻の下青黒く、食少く、色黒く、痩せあるひは、寒熱咳嗽せしむ。
九虫は、
一に伏虫、ながさ四寸諸虫の長なり。
二に蛔虫、長さ一尺、動くときは清水を吐き、出るときは心痛す、もし心をつらぬくときんば人を殺す。
三に寸白、虫長さ一寸、動くときは、腹痛、腫聚り、清水を吐き、上り下り、おこりざめあり、心を傷るときは死す。
四に肉虫、ただれたる杏のごとし、人を煩満せしむ。
五に肺虫、蚕のごとし、人をして咳嗽せしむ。
六に胃虫、かわづに似たり、吐逆、噦をする。
七に弱虫、瓜のなかごのごとし、多く唾を吐く。
八に赤虫、生の肉のごとし、腸を鳴しむ。
九に蟯虫、細にして菜虫のごとし、疥癬、痔、瘍瘡を生ず。
千金方に曰く、五蔵労するときは熱を生ず、熱するときは虫を生ず。心虫を、蚘と云。脾虫を寸白と云。肺虫はかいこのごとし。肝虫は李のごとし。腎虫は寸々に切たる線のごとし。三虫は長虫・赤虫・蟯虫なり。諸虫みな、上半日は頭を上にむかふ。
凡そ諸虫を治するに、寒熱虚実を察し、脉をわきまへつまびらかにして針を行ふべし。
三陰交・三里・内関・陰谷・行間・太白・復溜・気海・脾兪・梁門・天枢・滑肉門。
虫の発りたるとき、痛みの上に、刺すべからず、まづ足の穴にて気を下すべし、諸虫みな気血のあつまり、邪気に感じ、その時節に応じて、色々のかたちをなす、気を引き下すときは虫おのづから治す。


今回の講義は、身体を巣食う虫、いわゆる寄生虫の話でした。
このご時世、鍼灸師が寄生虫に罹った方の治療を請け負う事は、ほとんど皆無と言えるのではないでしょうか。(少なくとも僕は一度もありません。)
自分がもし、この章の講義担当になったら、「どんな風に話を進めたら良いだろうか?」と考えただけで、背中に嫌な汗をかきながら聞いていました。

中村副会長のお話しは、それぞれの寄生虫に関する考察や、現代医学との対比、そして虫の病と言う事で、小児の疳の虫まで、興味深い内容が満載で、とても勉強になりました。
ここで紹介されている虫の中には、現代にも該当する寄生虫もあれば、想像と思しき様な虫などもあります。
そのうち、寸白(すばく)というのは、今で言うサナダムシにあたります。
そのサナダムシの名前は、戦国時代の武将真田昌幸/幸村父子が考案されたとも謂われる真田紐に形状が似ている所に由来しているのだとか。

僕がたまに利用する祢津地区のランニングコースの途中、「寸白大明神」と言う石神様が佇んでいます。
どういう経緯で、この場所に祀られているのかは分かりませんが、その昔この辺りでもサナダムシに悩まされる様な事があったのかも知れませんね。
暇な時にでも郷土史を遡って調べてみたいと思います。IMG_4558.jpg祢津にある寸白大明神

昔から人間との関わりが深い寄生虫。
古くは平安時代の末期に編纂されたと謂われる「今昔物語集」の中にも、寸白(サナダムシ)に因んだお話しがあります。
あらましはこうです。
「その昔、サナダムシを患っていた女性の生んだ子供が、出世して信濃守として赴任しました。
そこで歓待の宴を催された信濃守でしたが、実は、この信濃守はサナダムシの生まれ変わりだったのです。
作中ではサナダムシは胡桃が苦手と言う事になっていて、胡桃を異常に恐れる信濃守に疑念を抱いた人々は、胡桃をすり潰したお酒を振る舞い、それを飲んだ信濃守は溶けて消えてしまった。」というお話しがあります。
丁度、くるみ堂長岡はり灸院の名前にもある様に、この東御市は胡桃の産地。
胡桃がサナダムシの苦手なものかどうかは知りませんが、寸白大明神といい、何かと繋がりがあって、虫に俄然興味が湧き始めました。

更に遡ると、中国医学の原典にあたる「黄帝内経霊枢・口問篇」の中にも、「飲食者、皆入于胃、胃中有熱則虫動。虫動則胃緩、胃緩則廉泉開。故涎下。」という条文があります。
これ等は、食べる時に涎が出るのは胃の中の虫が活発に動くからだ、と言う内容になるのですが、当時の人がイメージしていたのは、もしかすると腸内細菌の様な微生物だったのではないかと想像が膨らんできます。
であれば、日頃「食欲不振」「胃もたれ」「消化不良」「口の中が乾燥する」「口の中が粘る」等という症状で治療を請け負う事もありますので、これも間接的に虫の治療!?と言えるかも知れませんね。